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配布資料等「テオ・ヤンセンから学んだこと」 日本文理大学 工学部航空宇宙工学科 小幡章教授

2011.09.22 up

テオ・ヤンセン展 コーヒーアワー情報
(日本文理大学 工学部 航空宇宙工学科 小幡 章教授

テーマ
テオ・ヤンセンさんから学んだこと

概 要
以前から気になっていたテオ・ヤンセンの作品を幸運にも大分で見ることが出来た。
予想通りであったが故に、ヤンセン氏の提示したものは単に芸術としてではなく、我々の生き方や技術に関わる重要な方向性を示すのではないかという想いを強くしたのだった。
関係者にそんな事を話しているうちに思わぬ展開となって、お前は若干近い領域で仕事をしているようだから、一言感想を述べよとの話になってしまった。
ヤンセンさんは天才的芸術家でこちらは一介の技術者ということで最初は固辞したが、ヤンセンさんの作品を見て風力利用に関心を持たれた方が多いと聴き、偶々今、全く新しい形態の小型風車(マイクロ・エコ風車という)を開発していることもあって感じたことを敢えてお話しをさせていただくこととした。
自分はヤンセンさんより遥かに技術者寄りなので立ち位置はかなり違うが、ここのデモ風車が示すようにヤンセンさんの世界と共通するところもあるように思うので、その観点で話をさせていただきたいと思う。(簡単に風車を説明。A4一枚の説明書配布)
技術的にはヤンセンさんの作品は機構学、低速の空気力学そして圧力という身近な現象と材料を利用して組み上げた、生き物に近い動きと機能を持っているもの、といってよいようである。
単純な回転運動をリンク機構によって思うような運動に転換することは技術の世界でも時々必要になるが、それを実現するためには際立った才能と努力と運が要求されることは良く知られている。彼が彼のリンク機構の秘密をホーリーナンバーと言うのも無理もない話である。
ヤンセン氏の才能なくしては成立しないとなると、余人の及ぶところではなくなるので発展性に欠けるということになりそうだが、自分には、ヤンセン氏の切り開いた世界がこれからの技術社会の向かうべき方向を示唆しているように思われてならない。単に文化や芸術として捉えるのはもったいないような気もする。
以下、若干の考察を加えたい。
彼の作品は4つの特徴を持っている。
・構成品はハードでなくソフトな材質である(本来のソフトウエアといえよう)。
・日常的な風と日常的な空気圧そして日常使われる材料を利用している。
・機構による動きは奇跡的ですらある。
・群をなすことで機能する。
こういう捉え方をすると、ここにあるマイクロ・エコ風車と一致点が多い(簡単に説明)。
羽根周りの空気の流れを可視化すると渦の作用は奇跡的とすら言える程見事である。(説明書に写真あり)。
彼の作品が生物に極めて近いことは明らかである。ヤンセン氏も進化と言う表現を好んで使っている。この風車は生物には見えないが元はと言えばトンボである。
antivirus software reviews 現代文明が突き当たっている技術の壁を乗り越えるべく、言葉では、地球温暖化、持続性社会、循環型社会、生物多様性、再生可能エネルギー、ネイチャーテクノロジー、バイオミメティックス等々数多くあるが、新しい技術に関する具体的な方法論が確立されている訳ではない。
ヤンセンさんの仕事は、この壁を越える唯一の方向が「生物」であるということを極めて具体的に示しているように思えてならない。
日本でも江戸時代には、環境に優しい一つの循環型社会が完成されていたといわれているが、世界には便利さを優先するところもあるし、自国の経済発展を至上とするところもある訳だし、我々自身江戸時代に戻る訳にも行かない。
環境問題を抱えながら、一方で競争社会にさらされている我々はどうしたらよいのだろう。
多少効率が悪くても人々が受け入れる条件は何であろうか。
ここでヤンセンさんの作品を改めて見ると、実用になるとは思わないが、共通して「心が癒される」効果を持つことに気付く。
一歩話を進めて、ヤンセンさんの作品が実際に有用な仕事をしてくれるとなると、世界中の人が、多少効率が悪くとも受け入れるのではないかということになる。
先程述べた物理的な特徴に加えるに「癒し」効果がヤンセンさんの作品が教えてくれる、新しい技術の方向性策定に向けてのポイントかもしれないぞ、が今回実物を見て学んだことと言える。
「生命の根源にさかのぼるような不思議な感情」を「癒し」という安直な表現で置き換えるのは気になるが、空気を食し、周りの者の生命を維持したり守ったりする動きが出来るような癒し効果のあるソフトな機械が現れる日が来ることを願って技術者は努力すべきなのかもしれない。
自分的にはそれほど残された時間がないので、同じような目標を持っていながらもう少し急ぎたい。ヤンセン・プログラムの物理的特徴の中の最も難しい機構問題に踏み込まないで何かが出来る方法が必要である。
自分は、それが実在の生物から学ぶことで可能になるのではないかと考えている。生物は数億年以上の時を経て信じられないような進化を遂げている。
トンボの羽根の空力メカニズムを利用してつくったのがこのエコ風車の試作品である。
ベランダに置いたこのエコ風車を見ることで人の心が多少とも癒されることを願っている。少なくとも太陽光パネルよりは見て気分が良い。
今回、ヤンセン展を見せていただいて大いに勉強になったし、勇気付けられもした。
以上、纏っていなくて恐縮であるが、動くものの「不思議な癒し効果」の重要性認識がヤンセン展での自分が学んだこということになる。

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